パンデミックが暴いた「信頼」の格差―がん情報源をめぐる6年間のデータ

「誰から得る情報か」で信頼は変わる?

「がんについて調べるなら、どの情報を信じればいいのだろう」

インターネットやSNSでさまざまな情報が簡単に手に入る現在、こうした疑問を持つ方も少なくありません。

特に新型コロナウイルス感染症の流行以降、健康や医療に関する情報は急速に増えました。一方で、情報の内容だけでなく、「誰が発信しているのか」「その情報を信頼できるのか」という問題にも注目が集まるようになりました。

では、コロナ禍を経て、がんに関する情報への信頼はどのように変化したのでしょうか。

2026年8月、医学誌『JAMA Network Open』に、米国におけるがん情報源への信頼の変化を調べた研究が掲載されました。

米国の全国調査データを2018年から2024年まで分析したこの研究では、興味深い結果が示されています。

医師への信頼は95%以上という高い水準を維持した一方、政府の保健機関への信頼は低下していました。

今回は、この研究結果をもとに、「がん情報への信頼」がどのように変化したのかを分かりやすく解説します。

研究では何を調べたの?

研究を行ったのは、米国ケンタッキー大学などの研究チームです。

研究では、米国国立がん研究所(NCI)が実施している「HINTS(Health Information National Trends Survey)」という全国調査のデータが使用されました。

2018年、2020年、2022年、2024年の4つの調査サイクルから、がん情報の情報源に対する信頼について回答した人を分析しています。

対象となったHINTS回答者20,899人のうち、必要なデータがそろっていた17,252人が主要な分析対象となりました。

研究では、がんに関する情報源として、

  • 医師
  • 政府の保健機関
  • 家族や友人
  • 慈善団体

の4つについて、「どの程度信頼しているか」を調べています。

また、調査時期を、

  • パンデミック前
  • パンデミック初期
  • パンデミック後期
  • パンデミック後

に分けて比較しました。

なお、この研究は各時点の調査を比較する「反復横断研究」です。

そのため、「コロナ禍そのものが信頼の低下を引き起こした」といった因果関係を証明するものではありません。

結果① 医師への信頼は95%以上で維持された

最も印象的だったのが、医師への信頼です。

パンデミック前、がんに関する情報源として医師を「とても信頼する」または「ある程度信頼する」と回答した人は、95.7%でした。

その後の調査でも、医師への信頼に統計的に有意な変化は認められませんでした。

つまり、2018年から2024年までの期間を通して、「がんの情報なら医師を信頼する」という傾向は、高い水準で維持されていたことになります。

医療情報があふれる時代になっても、医師という「個人の専門家」に対する信頼は、全体として大きく揺らいでいなかったことが分かります。

結果② 政府の保健機関への信頼は低下

対照的だったのが、政府の保健機関です。

パンデミック前には、政府の保健機関を信頼している人は75.9%でした。

ところが、

  • パンデミック後期:71.3%
  • パンデミック後:71.7%

まで低下しました。

研究上も、この低下は統計的に有意でした。

そして重要なのは、2024年の「パンデミック後」の調査でも、パンデミック前の水準まで戻っていなかったことです。

つまり、この研究で観察された範囲では、政府の保健機関への信頼は一時的に下がっただけではなく、2024年時点でもパンデミック前より低い水準にとどまっていました。

がん情報源への信頼はどう変化した?

主な結果をまとめると、次のようになります。

がん情報の情報源パンデミック前その後の主な変化
医師95.7%高い水準を維持。全体では有意な変化なし
政府の保健機関75.9%後期71.3%、パンデミック後71.7%へ低下
家族・友人58.2%パンデミック後52.6%へ低下
慈善団体51.8%パンデミック後期47.9%へ低下

この結果から分かるのは、「医療情報への信頼が一律に低下したわけではない」ということです。

医師への信頼は高い水準を維持した一方で、政府の保健機関や家族・友人、慈善団体など、一部の情報源では信頼の低下がみられました。

今回の研究で特に明確だったのは、医師への信頼は維持された一方、政府の保健機関への信頼が低下したという違いです。

信頼の変化には年齢や地域などによる違いも

さらに研究では、年齢や性別、人種・民族、居住地域、がんの既往歴などによって、信頼の変化に違いがあるかも分析しています。

政府の保健機関への信頼低下は、特に一部のグループで目立ちました。

グループパンデミック前パンデミック後期パンデミック後
白人75.4%70.2%68.7%
男性75.3%69.2%69.7%
18~34歳82.3%71.2%72.6%
都市部居住者76.4%72.2%72.7%
がんの既往歴なし76.4%71.4%72.0%

このように、政府の保健機関への信頼の変化は、すべての人で同じだったわけではありません。

特に18~34歳では、パンデミック前の82.3%からパンデミック後には72.6%となっており、比較的大きな変化がみられています。

ただし、これらの結果から「年齢や性別などが信頼低下の原因である」と断定できるわけではありません。あくまで、信頼の変化のパターンが集団によって異なっていたと捉えることが重要です。

医師への信頼にも一部で変化があった

「医師への信頼はまったく変化しなかった」と単純に考えることもできません。

全体では統計的に有意な変化は認められませんでしたが、サブグループを見ると一部で変化が確認されています。

研究では、白人の回答者を除くと、医師への信頼が低下したのは非都市部に住む人でした。

非都市部では、【97.8% → 93.2% → 92.9%】と変化していました。

それでも90%を超える高い水準ではありますが、医師への信頼についても、すべての人で完全に変化がなかったわけではないことが分かります。

なぜ「誰からの情報か」が重要なの?

そもそも、医療情報において「信頼」はなぜ重要なのでしょうか。

研究では、情報源への信頼が、情報を探す行動や情報の信頼性に対する認識、そして最終的な健康行動にも関係すると説明されています。

これまでの研究では、医師や医療機関からのがん情報への信頼が低いことと、推奨されるがん検診を受けないことなどとの関連も報告されています。

一方で、信頼できる情報源から得た情報は、検査や治療などの意思決定を考える際にも重要な役割を果たします。

つまり、正しい情報を発信するだけではなく、「その情報を誰が伝えるのか」ということも、医療情報を届けるうえで重要な要素になります。

コロナ禍で何が変わったのか?

今回の研究結果から見えてくるのは、単純な「医療不信」ではありません。

むしろ、医師という個人への信頼は高いまま維持された一方で、政府の保健機関という制度への信頼には低下がみられたという違いです。

新型コロナウイルス感染症の流行中には、感染対策やワクチンなどについて、さまざまな情報が発信されました。

その一方で、科学的な知見が更新されることで、推奨や情報が変化することもありました。

また、SNSなどを通じて、専門家だけでなく、著名人やさまざまな立場の人が健康情報を発信する機会も増えました。

こうした情報環境の変化が、情報源への信頼のあり方にも影響している可能性があります。

ただし、今回の研究だけから「コロナ禍によって政府への信頼が低下した」と断定することはできません。

研究自体も、因果関係を明らかにすることには限界があるとしています。

「正しい情報」だけでは十分ではない?

医療情報を発信する側にとって、今回の研究は重要な示唆を含んでいます。

どれだけ正確な情報であっても、受け取る側が「この情報源は信頼できる」と感じなければ、実際の行動につながりにくい可能性があります。

特に現在は、検索エンジンやSNSを使えば、がんについても非常に多くの情報を見つけることができます。

その中には、医学的根拠に基づく情報だけでなく、個人の体験談や広告、専門家ではない人による発信なども含まれています。

情報が増えれば増えるほど、「何が正しいのか」だけではなく、「誰の情報を信頼するのか」を考えることが重要になってきます。

地域の医師やコミュニティからの情報発信にも意味がある

今回の研究では、著者らは、がんに関する情報が従来とは異なる発信者によって形づくられる傾向にも触れています。

そのうえで、科学的根拠に基づいた情報を、臨床、行政、地域コミュニティなど、信頼される情報源を通じて届けることの重要性を指摘しています。

これは、必ずしも大規模な情報発信だけが重要という意味ではありません。

たとえば、日頃から患者さんと接している地域の医師や医療機関が、がん検診や治療、予防などについて分かりやすく情報を発信することも、その一つと考えられます。

普段から顔を合わせる医師から情報を得ることで、インターネット上で偶然見つけた情報とは違った受け止め方をする人もいるでしょう。

がんの情報を調べるときに意識したい5つのポイント

では、私たちは日常生活の中で、がんに関する情報とどのように向き合えばよいのでしょうか。

まず大切なのは、一つの情報だけで判断しないことです。

インターネットやSNSで気になる情報を見つけたときには、次の点を確認してみましょう。

  1. 誰が発信している情報なのか
  2. 医学的な根拠が示されているか
  3. いつ発信・更新された情報なのか
  4. 個人の体験談と医学的な情報が混同されていないか
  5. ほかの信頼できる情報源でも同じ内容を確認できるか

特に、がんの検査や治療に関する情報は、個人の状態によって適切な選択肢が異なります。

インターネット上の情報だけで判断せず、気になることがあれば医師に相談することも大切です。

今回の研究を見るときの注意点

今回の研究は、米国の全国調査データを2018年から2024年まで分析したものです。

そのため、日本に住む人の「がん情報への信頼」が同じように変化したことを示す研究ではありません。

また、今回の研究は複数の時点の調査結果を比較したものであり、特定の出来事が信頼の変化を直接引き起こしたことを証明するものではありません。

さらに、回答者自身が「どの程度信頼しているか」を回答する調査であるため、自己申告によるバイアスや、回答しなかった人との違いなどの影響も考えられます。

したがって、「コロナ禍によって政府への信頼が失われた」と単純に結論づけるのではなく、2018年から2024年の米国の全国調査では、医師への信頼は高い水準で維持された一方、政府の保健機関への信頼が低下する傾向が確認されたと理解するのが適切です。

よくある質問

Q. この研究では、コロナ禍が原因で政府への信頼が低下したと証明されたのですか?

いいえ。

2018年から2024年のデータを比較した結果、政府の保健機関への信頼が低下していたことは示されていますが、コロナ禍そのものが原因だったと因果関係を証明する研究ではありません。

Q. 医師への信頼は下がらなかったのですか?

全体では、パンデミック前の95.7%から統計的に有意な変化は認められませんでした。

一方で、サブグループでは一部に低下がみられ、非都市部の回答者では97.8%から92.9%に低下していました。

Q. 政府の保健機関への信頼はどのくらい低下しましたか?

全体では、パンデミック前の75.9%から、パンデミック後期には71.3%、2024年のパンデミック後には71.7%となりました。

Q. 日本でも同じことが起きているのでしょうか?

今回の研究は米国のデータを分析したものなので、日本について同じ結論を出すことはできません。

日本における医療情報への信頼については、日本の調査や研究を別途確認する必要があります。

Q. がんについてインターネットで調べるのはよくないのでしょうか?

インターネットは、がんについて知るための便利な情報源の一つです。

ただし、情報の発信者や根拠、情報が掲載・更新された時期などを確認し、一つの情報だけで判断しないことが大切です。

検査や治療など、ご自身の健康に関わる判断については、医師に相談することをおすすめします。

まとめ

今回紹介した『JAMA Network Open』の研究では、2018年から2024年までの米国のHINTSデータを用いて、主要解析対象となった17,252人について、がん情報源への信頼がどのように変化したのかが調べられました。

主な結果は、

  • 医師への信頼はパンデミック前95.7%と高く、その後も全体として有意な変化は認められなかった
  • 政府の保健機関への信頼は75.9%から71%台へ低下した
  • 2024年時点でも政府の保健機関への信頼はパンデミック前より低い水準だった
  • 家族や友人、慈善団体への信頼にも一部の時期で低下がみられた
  • 信頼の変化には、年齢や性別、居住地域、がんの既往歴などによる違いもみられた

というものでした。

今回の研究から特に興味深いのは、「医療情報への信頼が一律に低下した」のではなく、情報源によって変化に違いがあったという点です。

医師への信頼は高い水準で維持された一方、政府の保健機関への信頼には低下がみられました。

医療情報があふれる今だからこそ、単に「情報を発信する」だけではなく、誰が、どのような根拠に基づいて情報を伝えるのかが、これまで以上に重要になっているのかもしれません。

がんに関する情報を調べるときも、一つの情報だけを鵜呑みにするのではなく、信頼できる情報源を確認し、必要に応じて医療機関や医師に相談することが大切です。

参考文献

『JAMA Network Open』掲載論文
「パンデミック中およびパンデミック後のがん情報源への信頼」
2026年8月31日掲載

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