グルコサミンが認知症の進行に関連か?

「グルコサミンは関節に良いから、長く飲み続けても大丈夫?」
そう考えている方も多いのではないでしょうか。

グルコサミンは、関節の健康維持を目的としたサプリメントとして広く利用されています。
特に、膝などの関節の痛みが気になる中高年の方にとって、身近なサプリメントのひとつです。

ところが『Nature Metabolism』に掲載された研究で、グルコサミンとアルツハイマー病の進行との間に気になる関連が報告されました。
研究では、アルツハイマー病の脳で「過剰グリコシル化(hyperglycosylation)」と呼ばれる異常が起こっていることが示され、アルツハイマー病モデルのマウスにグルコサミンを投与すると、認知機能の悪化がみられました。

さらに、約6万5,000人の診療記録を解析したところ、軽度認知障害(MCI)の患者では、グルコサミンを使用していた人のほうが認知症へ進行する割合が約25%高かったと報告されています。

ただし、ここで注意したいのは、この研究だけで「グルコサミンが認知症を引き起こす」とは言えないということです。

今回は、この研究で何が分かったのか、なぜグルコサミンが認知機能に影響する可能性があるのか、そしてサプリメントをどのように考えればよいのかを分かりやすく解説します。

グルコサミンとは?

グルコサミンは、体内にも存在するアミノ糖の一種です。
関節の軟骨などに関係する成分として知られており、関節の健康維持を目的としたサプリメントとして広く利用されています。

一方で、グルコサミンは単に「関節の材料」になるだけではありません。
体内では、タンパク質などに糖鎖を付加する「グリコシル化」という生化学的な反応にも関係しています。
グリコシル化は、タンパク質の働きや細胞の機能を調整する重要な仕組みです。

しかし、今回の研究では、アルツハイマー病の脳でこのグリコシル化が過剰になっていることが示されました。
研究者らは、この「過剰グリコシル化」がアルツハイマー病の病態を進める一因になっている可能性に注目しています。

今回の研究では何を調べたの?

今回の研究は、米国フロリダ大学などの研究グループによって行われ、『Nature Metabolism』に掲載されました。

研究では、

  • アルツハイマー病モデルのマウス
  • 健康なマウス
  • アルツハイマー病患者の脳組織
  • 軽度認知障害(MCI)やアルツハイマー病などの患者の電子カルテ

など、複数の方法を組み合わせて検討しています。

特に特徴的なのが、空間メタボロミクス、リピドミクス、グライコミクスなどの解析を組み合わせ、アルツハイマー病の脳内で起こっている代謝変化を詳しく調べた点です。

その結果、アルツハイマー病の脳では、糖鎖の合成が増加し、タンパク質などへの糖鎖付加が過剰になっていることが示されました。
研究者らは、この状態を「hyperglycosylation(過剰グリコシル化)」と呼んでいます。

アルツハイマー病の脳では「糖鎖」が増えていた

グリコシル化とは、タンパク質などに糖鎖が付加される反応です。
これは正常な細胞でも起こっている重要な仕組みですが、過剰になるとタンパク質の働きなどに影響を与える可能性があります。

今回の研究では、アルツハイマー病モデルのマウスやヒトのアルツハイマー病脳組織を調べた結果、糖鎖の合成が増えていることが確認されました。
さらに、糖鎖を作るために必要な酵素の働きを遺伝学的に抑えると、アルツハイマー病モデルマウスの認知機能が改善しました。

この結果から、研究者らは、

「過剰なグリコシル化そのものが、アルツハイマー病の病態を進める可能性がある」

と考えました。

グルコサミンを投与すると、マウスの認知機能が悪化

では、グルコサミンはこの仕組みとどのように関係するのでしょうか。
研究では、アルツハイマー病の症状を再現するモデルマウスにグルコサミンを経口投与しました。

その結果、グルコサミンを投与したマウスでは、脳内の糖鎖代謝が変化し、認知機能の悪化が認められました。
一方、健康なマウスでは同じような明らかな認知機能への悪影響は確認されませんでした。

この結果は非常に興味深いものです。

つまり、グルコサミンそのものが誰に対しても同じような悪影響を及ぼすというより、すでにアルツハイマー病の病態が存在する脳では、グルコサミンによる糖鎖代謝の変化が影響しやすい可能性が考えられます。

ただし、これはあくまで動物実験で得られた結果です。
人間で同じことが起こるかどうかについては、さらに研究が必要です。

人の診療記録ではどうだった?

今回の研究では、実際の患者さんの電子カルテを使った後ろ向き解析も行われました。

2012~2024年のフロリダ大学の医療システムの診療記録から、

  • アルツハイマー病および関連認知症(ADRD):24,481人
  • 軽度認知障害(MCI):41,884人

が解析対象となりました。

それぞれの集団の約8%で、グルコサミンの使用が記録されていました。
ADRD患者では1,896人、MCI患者では2,750人がグルコサミン使用者として分類されています。
そして、年齢や性別、人口統計学的な要因などを調整して解析したところ、興味深い結果が得られました。

MCI患者では、認知症への進行が約25%多かった

MCIとは、正常な加齢によるもの忘れよりも認知機能が低下しているものの、必ずしも日常生活に大きな支障が出ているわけではない状態です。
今回の研究では、MCI患者を追跡したところ、グルコサミンを使用していた人では、使用していなかった人と比べて、MCIからアルツハイマー病および関連認知症(ADRD)へ移行する割合が約25%高いという結果が得られました。

これは、今回の研究で特に注目された結果です。

ただし、ここで重要なのが「約25%高い」という数字の意味です。
これは、「グルコサミンを飲むと25%の人が認知症になる」という意味ではありません。
また、「グルコサミンが認知症を25%増やした」と因果関係を証明したものでもありません。

あくまで、電子カルテを使った後ろ向きの観察研究で、グルコサミンの使用と認知症への進行との間に関連が認められたという結果です。

認知症患者では死亡リスクにも関連がみられた

さらに、すでにアルツハイマー病や関連認知症(ADRD)と診断されている患者についても解析が行われました。
その結果、グルコサミンを使用していた患者では、10年間の死亡リスクが使用していない患者より約25%高かったと報告されています。

一方、MCI患者では、グルコサミン使用と死亡リスクとの間に有意な関連は認められませんでした。

つまり今回の研究では、

  • MCIでは認知症への進行との関連
  • ADRDでは死亡リスクとの関連

がそれぞれ観察されたことになります。

では、グルコサミンが認知症を悪化させるの?

ここは慎重に考える必要があります。

今回の研究で、

  • アルツハイマー病の脳では過剰グリコシル化がみられた
  • 糖鎖合成を抑えるとマウスの認知機能が改善した
  • アルツハイマー病モデルマウスへのグルコサミン投与で認知機能が悪化した
  • 人の診療記録でもグルコサミン使用と認知症への進行との関連がみられた

という結果が得られています。
そのため、「グルコサミン→糖鎖代謝→認知機能」というメカニズムには一定の整合性があります。
しかし、人のデータはあくまで観察研究です。

グルコサミンを飲んでいる人と飲んでいない人には、もともと健康状態や生活習慣などに違いがある可能性があります。
例えば、グルコサミンを使用する人は、関節痛や変形性関節症などを抱えている可能性があります。
関節の痛みがある人では、身体活動量が少なくなったり、フレイルなどの別の健康問題を抱えていたりする可能性もあります。

こうした要因が認知機能や死亡リスクに影響している可能性を完全には否定できません。

したがって、今回の研究だけをもって、
「グルコサミンが認知症を悪化させることが証明された」
と判断するのは適切ではありません。

以前の研究では、むしろ「認知症リスク低下」と関連していた

さらに興味深いのが、これまでの研究結果です。
『BMC Medicine』に掲載された研究では、グルコサミンの定期的な使用が、認知症の発症リスクの低下と関連していることが報告されています。
この研究では、観察研究に加えてメンデルランダム化解析も行われ、グルコサミン使用と認知症との関連が検討されました。

つまり、

今回の研究と過去の研究では、異なる結果が報告されている

ということです。
これは、どちらか一方の研究が必ず間違っているという意味ではありません。

認知症の研究では、

  • まだ認知機能が正常な人
  • MCIの人
  • すでに認知症がある人

では、病気の状態や脳内の代謝環境が大きく異なります。
そのため、同じグルコサミンでも、「誰が」「どの段階で」「どのくらい使用するか」によって影響が異なる可能性があります。

「一般の人」と「認知機能が低下した人」では結果が違う?

今回の研究から考えられる重要なポイントのひとつが、この違いです。
一般的に健康な人では問題がみられなくても、すでに病気が進行している状態では、同じ物質が異なる影響を与える可能性があります。
今回のマウス実験でも、アルツハイマー病モデルではグルコサミンによる認知機能の悪化がみられた一方、健康なマウスでは同様の影響が明確には確認されませんでした。

もちろん、マウスの結果をそのまま人間に当てはめることはできません。

しかし、

「サプリメントだから誰にとっても安全」

とは限らないことを考えるきっかけになる研究といえるでしょう。

「何を摂るか」だけでなく「どのような状態で摂るか」が重要

今回の研究を考えるうえで、もうひとつ興味深い例が「硝酸塩」です。

『Alzheimer’s & Dementia』に掲載されたデンマークの大規模コホート研究では、54,804人を約27年間追跡し、硝酸塩の摂取源と認知症発症との関連が調べられました。
その結果、植物由来の硝酸塩を多く摂取している人では、認知症の発症率が低い傾向がみられました。

一方で、動物由来や加工肉由来、水道水由来の硝酸塩では、認知症リスクの上昇との関連がみられました。
植物由来の硝酸塩は、体内で一酸化窒素(NO)へ変換され、血管や神経系に関係する可能性があります。

一方、加工肉などに由来する硝酸塩・亜硝酸塩では、体内で別の代謝産物が生成される可能性があります。
もちろん、こちらも観察研究であり、因果関係が証明されたわけではありません。

それでも、「同じ成分なら、どこから摂っても同じ」とは限らないことを示す興味深い研究です。

サプリメントなら「健康に良い」とは限らない

サプリメントは、食事から不足しやすい栄養素などを補う目的で利用されています。

しかし、

「天然成分だから安全」
「食品由来だから副作用がない」
「長く飲んでいるから問題ない」

とは限りません。

サプリメントも体内に取り込まれる以上、薬と同じように、身体の状態や他の薬・サプリメントとの組み合わせなどによって影響が変わる可能性があります。
特に高齢者では、複数のサプリメントを同時に使用しているケースもあります。

そのため、病院を受診するときには、処方薬だけでなく、健康食品やサプリメントについても医師に伝えておくことが大切です。

認知症予防のためにサプリメントを飲めばよい?

「認知症を予防するために、何かサプリメントを飲んだほうがよいのでは?」
と考える方もいるかもしれません。
しかし、サプリメントを飲めば認知症を予防できると考えるのは適切ではありません。

WHOは2019年の「認知機能低下と認知症のリスク低減に関するガイドライン」において、ビタミンB群、ビタミンE、多価不飽和脂肪酸などのサプリメントを、認知症予防目的で一般的に推奨する根拠は不十分としています。
なお、WHOは2026年にガイドライン第2版を公表しており、認知症リスク低減について最新のエビデンスを反映した内容に更新されています。

大切なのは、「認知症に良いとされる成分を探してサプリメントを追加する」ことだけではありません。
食事、運動、睡眠、生活習慣病の管理など、複数の要素を総合的に考えることが重要です。

今回の研究を見るときの注意点

今回の研究は、アルツハイマー病の病態を理解するうえで非常に興味深い研究です。
一方で、いくつか注意すべき点があります。

まず、人を対象とした解析は後ろ向きの観察研究です。
そのため、グルコサミンを使用したことが認知症の進行や死亡を引き起こしたと証明することはできません。

また、グルコサミンを使用していた人と使用していなかった人では、もともとの健康状態や生活習慣、関節疾患の有無などが異なる可能性があります。

さらに、今回の研究は特定の医療機関の電子カルテを利用した解析であり、結果がそのまま日本のすべての人に当てはまるとは限りません。

したがって、今後は異なる集団での研究や、より厳密に条件を管理した研究によって、今回の関連が再現されるかを確認する必要があります。

よくある質問

Q. グルコサミンを飲んでいますが、やめたほうがいいですか?

今回の研究だけを理由に、すべての人がグルコサミンを中止すべきとは言えません。
今回報告された人のデータは観察研究であり、グルコサミンが認知症の進行を直接引き起こすことを証明したものではありません。
特に、すでにMCIや認知症と診断されている方は、自己判断でサプリメントを変更するのではなく、使用している製品や量について主治医に相談するとよいでしょう。

Q. グルコサミンは認知症を予防するという研究もあるのですか?

はい。
2023年の研究では、グルコサミンの定期的な使用が認知症発症リスクの低下と関連したという結果が報告されています。
一方、今回の2026年の研究では、MCIから認知症への進行との関連が報告されました。
研究によって結果が異なるため、現時点では「グルコサミンは認知症に良い」「悪い」と一律に判断することはできません。

Q. サプリメントは薬より安全ですか?

必ずしもそうとは限りません。
サプリメントにも身体に作用する成分が含まれており、健康状態や他の薬との組み合わせによっては注意が必要な場合があります。
特に複数のサプリメントを使用している場合は、医療機関を受診する際に使用しているものを伝えるようにしましょう。

Q. 今回の研究で、グルコサミンがアルツハイマー病の原因だと分かったのですか?

いいえ。
今回の研究では、グルコサミンがアルツハイマー病の病態に影響する可能性を示す動物実験と、人の診療記録における関連が報告されています。
しかし、人でグルコサミンが認知症の進行を直接引き起こすことまで証明されたわけではありません。

今回の研究から分かること

今回の研究で特に注目したいのは、グルコサミンそのものの「良い・悪い」だけではありません。
アルツハイマー病の脳では、糖鎖の合成が過剰になっていることが示され、これを抑えることでマウスの認知機能が改善しました。

一方、アルツハイマー病モデルマウスにグルコサミンを投与すると、認知機能の悪化がみられました。
さらに、人の電子カルテを解析したところ、MCI患者ではグルコサミン使用者で認知症への進行が約25%多く、ADRD患者では死亡リスクが約25%高いという関連が報告されました。

ただし、これらの人での結果は観察研究によるものであり、因果関係を証明するものではありません。
また、過去にはグルコサミン使用と認知症リスクの低下との関連を報告した研究もあります。

つまり、現時点では、

「グルコサミンは認知症を悪化させる」

と結論づける段階ではありません。

むしろ今回の研究は、

「サプリメントは誰にとっても同じように作用するとは限らない」

ということを考えるきっかけとなる研究といえるでしょう。

まとめ

グルコサミンは、関節の健康維持を目的として広く利用されているサプリメントです。

『Nature Metabolism』に掲載された研究では、アルツハイマー病の脳で「過剰グリコシル化」と呼ばれる糖鎖代謝の異常が起こっていることが示されました。

また、アルツハイマー病モデルマウスにグルコサミンを投与すると、認知機能の悪化がみられました。

さらに、約6万5,000人の電子カルテを解析した結果、MCI患者ではグルコサミン使用者のほうが認知症へ進行する割合が約25%高く、すでにADRDを発症している患者では死亡リスクが約25%高いという関連が報告されています。

一方で、これまでにはグルコサミン使用と認知症リスクの低下との関連を示した研究もあります。

今回の研究も、人を対象とした部分は観察研究であるため、「グルコサミンが認知症を悪化させる」と因果関係まで証明したものではありません。

大切なのは、サプリメントを「健康食品だから安全」「天然成分だから問題ない」と一括りに考えないことです。

特にMCIや認知症など、すでに認知機能の変化がある場合には、服用している薬だけでなく、サプリメントや健康食品についても医療者に伝えておくことが大切です。

今後、今回の研究結果がほかの集団でも再現されるのか、そしてグルコサミンと糖鎖代謝の関係が実際の認知症治療や予防にどのようにつながるのか、さらなる研究が期待されます。

参考文献

1)Hawkinson TR, et al.
Hyperglycosylation is a metabolic driver of Alzheimer’s disease.
『Nature Metabolism』2026;8(6):1410-1425.
PubMed(論文):https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42265388/
Nature Metabolism(原著論文):https://www.nature.com/articles/s42255-026-01538-4

2)Zheng J, et al.
Association of regular glucosamine use with incident dementia: evidence from a longitudinal cohort and Mendelian randomization study.
『BMC Medicine』2023;21:114.
BMC Medicine(論文):https://link.springer.com/article/10.1186/s12916-023-02816-8

3)Bondonno CP, et al.
Source-specific nitrate intake and incident dementia in the Danish Diet, Cancer and Health Study.
『Alzheimer’s & Dementia』2025;21.
Alzheimer’s & Dementia(論文):https://doi.org/10.1002/alz.70995

4)World Health Organization(世界保健機関)
Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines.
『認知機能低下および認知症のリスク低減:WHOガイドライン』2019.
WHO(世界保健機関):https://www.who.int/publications/i/item/risk-reduction-of-cognitive-decline-and-dementia

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